2016年1月8日金曜日

箱根駅伝は本当にマラソンの弊害となっているか?(数字で検証)

第92回箱根駅伝は、青山学院大学が1区から先頭を譲らず完全優勝で2連覇を達成しました。

独走のレースでしたが、テレビの視聴率は今年も好調で関東地区で往路が28.0%で復路は27.8%を記録しました。

ちなみに2015年の年間視聴率は、1位が紅白歌合戦第2部、2位が紅白歌合戦第1部に次いで、3位箱根駅伝復路、4位箱根駅伝往路となっており、完全に国民的行事になっています。

一方で、近年の日本のマラソンの低迷は、箱根駅伝をはじめとした駅伝の偏重主義が主原因であるとの指摘がよくみられます。

青学“完全連覇”に大騒ぎも…箱根駅伝栄えてマラソン滅ぶ | 日刊ゲンダイDIGITAL http://bit.ly/1mH3c3w

果たして、本当にそうなのか。数字で検証してみたいと思います。


1.2時間10分未満(サブ10)の国別の達成者数の推移


国別の2時間10分未満(サブ10)ランナーの推移
2015年、男子で2時間10分未満の記録の達成者は、ケニアの81人が最高で、次いでエチオピアが41人、日本は4人で4番目となっています。

2015年の2時間10分未満のランナー 
1位 ケニア 81人
2位 エチオピア 41人
3位 エリトリア 5人
4位 日本 4人
合計 137人 (10か国)


一方、15年前の2000年は、ケニア21人でトップで、次いで日本が7人で2位でした。2000年のランキングトップ10を見ますとケニア選手が4人いますが、藤田選手が2位の他、ポルトガル、米国、韓国、スペインとアフリカ選手以外も上位に入っています。

2000年の2時間10分未満のランナー 

1位 ケニア 21人
2位 日本 7人
3位 スペイン 4人
4位 イタリア 3人
4位 エチオピア 3人
6位 韓国 2人
6位 フランス 2人
合計49人 (14カ国)

2000年マラソン世界ランキング
1 2:06:36 アントニオ・ピント(ポルトガル)
2 2:06:51 藤田敦史(日本) 
3 2:07:01 K・ハヌーシ (米国)
4 2:07:15 J・キプコリル(ケニア)
5 2:07:20 李鳳柱 (韓国)
6 2:07:29 J・キプロノ (ケニア)
7 2:07:33 A・エルムアジス(モロッコ)
8 2:07:42 S・ビボット(ケニア)
9 2:07:47 A・ペーニャ(スペイン)
9 2:07:47 モーゼス・タヌイ(ケニア)


2.国別のランキング最上位の推移

先ほどの数字で日本が伸び悩んでいることは明らかですが、2000年で上位に入っていた国は、現在、どうなっているか、韓国とスペインについて見てみます。

男子マラソン、年間ランキング最上位者の順位の推移

その年によって、ランキングの変動は激しいですが、2011年以降は日本が最上位で、2015年は、スペインが112位(2:09:33)、韓国に至っては315位(2:12:51)が最高位で日本(40位今井正人選手2:07:39)に大きく水を空けられています。
ポルトガル、米国、イタリアについても、同様で、2015年のランキング最上位者はかなり下がっています。

男子マラソン年間ランキング最上位者の順位
ポルトガル 2000年 1位 → 2015年 442位
米国    2000年 3位 → 2015年 159位
イタリア  2000年 20位 → 2015年 205位
=====
スペイン  2000年 9位 → 2015年 112位
韓国    2000年 5位 → 2015年 315位
日本    2000年 2位   → 2015年  40位


2000年に強かったアフリカ以外の国は、日本以上に低迷しているのが現状です。

3.リオ五輪男子マラソン参加標準記録突破者数(国別)
リオ五輪のマラソンに出場するためには、原則として2時間19分以内の記録が必要になりますが、その記録をクリアしている人数は、国別でみると以下の通りになります。
日本は、4位の米国を大きく引き離して、105人で3位、ケニア、エチオピアに次ぐ数字となっています。しかし、そのうちサブ10達成者の数字でみると、4人のみで、アフリカ諸国と比べて、その割合が少ないことが明らかです。

( )は、サブ10 : 2時間10分未満 2015年12月末現在
1位 ケニア 346人 (サブ1081人)
2位 エチオピア 168人 (サブ10・41人)
3位 日本 105人 (サブ104人)
4位 米国 31人
5位 モロッコ 22人
6位 エリトリア 20人 (サブ10・5人)
7位 韓国 18人
8位 南アフリカ 14人 (サブ10・1人)
8位 ウクライナ 14人 (サブ10・1人)
10位 イタリア 12人
10位 ロシア 12人

2015年男子フルマラソン世界ランキング/リオ五輪参加標準記録突破者(日本) http://bit.ly/1YIwBvc

4.結論

以上の数字を踏まえて言えることは、
駅伝が行われていない韓国、スペイン、米国、イタリア、ポルトガルなどが日本以上に低迷をしていることから、
駅伝によって、マラソンの低迷を最小限に食い止めている。
と考えられます。

サッカーはプロ化するなど、30年前と比べると、スポーツの選択肢は多様化しています。野球、サッカー、ゴルフ等、1億稼げる競技がある中で、駅伝、マラソンを選択する人が今でも多いのは、箱根駅伝の貢献度が高いことは事実だと思います。そして、実業団駅伝があることで、多くの選手が大学卒業後でも競技を続けることができるということは、とても有益であると考えています。

もし、日本に駅伝をなくしたら、マラソンを目指す人が減り、さらにレベルが低下することになるでしょう。


駅伝によって、
日本のマラソン選手層が厚い一方で、世界トップレベルの選手の割合が低い。
駅伝によって、競技人口を確保することには貢献していますが、サブ10ランナーの割合が少ないのを見て明らかなように、トップレベルの選手の輩出に関しては、現状はできていない状況といえそうです。

こちらに関しては、箱根駅伝2006年の5区山上りの延長は、マラソン選手育成には逆行していると思われます。
マラソンでは、キロ3分ペースが求められますが、5区の場合、キロ3分半ペースでよく、3分20秒ペースで走り切れば、山の神と言われます。
富士登山競走の優勝者がマラソンで日本記録出せるかといえば、そうではなく、適性の問題で、上り坂が強い=マラソンが速いとはなりません。
かつての箱根駅伝5区は、平地が遅くても、上り坂が得意のスペシャリスト(大学で競技を引退するようなランナー)が多く走っていましたが、距離が長くなったことで、5区のウェイトが高くなり、チームのエースも走ることが多くなりました。五輪を目指すような選手にとってそれが果たして、良いことなのか、疑問を持つことがあります。

駅伝は弊害ではなく、駅伝の利点を生かしきれていないのが問題で、
世界レベルの選手の育成の面では、色々と検討する余地は当然あると思います。


========

最後に

今まで、駅伝のメリットの話が多かったですが、問題点も当然あります。

中学、高校では30年前に比べると、駅伝大会が増加しています。特に女子は、競技人口に比べて、区間数が多く、有力な選手は年に何度も駅伝に出場しています。個人競技であれば、ケガがあれば欠場することはしやすいですが、駅伝となると有力な選手ほど強行出場するケースが多く、疲労骨折など故障者が続出して、早期に引退するケースがよく見られます。この点は見直す必要があると思います。

また、800m、1500mの中距離種目(特に男子)に関しては、駅伝の弊害になっている可能性は高いと思われます。本来であれば、その種目に注力すべきですが、本人の意思、あるいは周りの要請で長距離を走ることによって、中距離の有力選手が育ちにくいという状況は続いており、考えなければいけない問題だと思います。


必ずしも、 駅伝 → マラソン でなくても良いのでは

アフリカ以外の国ではマラソンの低迷が続いていますが、欧米や豪州などの国では、200年から五輪の正式競技となったトライアスロンに流れているようです。
トライアスロンは最後ラン10kmですが、男子のトップランナーは29分台で走りきります。スイム、バイクの後のランで速いタイムではありますが、トライアスロンはアフリカ選手が参入しておらず、1万m28分台で走る箱根駅伝の選手にとっては、スイム、バイクを磨けば、マラソンで2時間5分台、4分台を出すよりは、十分に戦えるタイムです。
箱根駅伝の次は、マラソンではなく、トライアスロンで世界と戦うという選択肢もあって良いと思います。

ロンドン五輪 男子トライアスロンのラン10km最高は、29分7秒
2012 London Olympic Games | Triathlon.org http://bit.ly/1mHfRUf


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マラソンの記録

【フルマラソン】

◆男子世界記録 2時間00分35秒 ケルビン・キプタム(ケニア) 2023年10月 シカゴマラソン (2分51秒5/km)

◆男子日本記録 2時間04分56秒 鈴木 健吾 2021年2月 びわ湖毎日マラソン(2分57秒7/km)

◆女子世界記録 2時間11分53秒 ティギスト・アセファ (エチオピア) 2023年9月 ベルリンマラソン (3分08秒/km)

◆女子日本記録 2時間19分12秒 野口 みずき 2005年9月 ベルリンマラソン (3分18秒/km)

◆自己記録  3時間37分32秒 2013年12月 青島太平洋マラソン(5分09秒/km)


【100km】

◆男子世界記録 6時間09分14秒 風見 尚 (日本)  2018年6月 サロマ湖100kmウルトラマラソン (3分42秒/km)

◆女子世界記録 6時間33分11秒 安部 友恵 (日本) 2000年6月 サロマ湖100kmウルトラマラソン (3分56秒/km)

◆自己記録 12時間13分41秒  2009年6月 サロマ湖100kmウルトラマラソン(7分20秒/km)

記録

【ハーフマラソン】
◆男子世界記録
 57分31秒 ジェイコブ・キプリモ(ウガンダ) 2021年11月(ポルトガル・リスボン)(2分43秒6/km)
◆男子日本記録 1時間00分00秒 小椋 裕介 2020年2月(香川丸亀国際ハーフ)(2分50秒6/km)
◆女子世界記録 1時間02分52秒 レテセンベト・ギデイ(エチオピア)2021年10月スペイン・バレンシアハーフマラソン (2:58.8/km)
◆女子日本記録 1時間06分38秒 新谷仁美 2020年1月 米国・ヒューストンハーフマラソン (3:09.5/km)
◆自己記録  1時間37分12秒 2013年11月 江東シーサイドマラソン(4分36秒/km)